利害の衝突
March 9, 1998
今後の銀行の進むべき展開をなんとはなしに考えていた。
さまざまな意見がある。ホールセールは収益率が良くないのでやめて、個人部門に特化しよう、ついでに投信を売ろうと言うのが一つのトレンドではある。本当にそれは正しいのか。どんな方法があるのかというのを自分なりに考えた。自分が顧客だったらどんな金融機関に資産の運用を依頼するのかという問いかけである。
正直なところそれほど運用利回りにはこだわらないだろうというのが結論である。そこそこ普通の運用実績があれば利回りは気にしない。むしろ、自分が顧客として大事にされていると思わせてくれることが重要だろうと考える。それならば今の金融個人営業だって同じだろうという意見があるだろうが、そうではないと思う。
今の金融セールスはセールスする人間の利害と、顧客の利害が残念ながら一致していないのである。セールスも人の子。誰だって自分がかわいい。勤め先で「この商品を売ってこい。ノルマが達成できるまでは会社に戻ってくるな。ノルマが達成できれば高額ボーナスを払うぞ!」といわれれば、ついつい顧客が本当に望む商品よりも自分が売りたい商品を優先してしまうだろう。顧客のことより自分のことを優先したとしても責める訳にはいかないが、顧客の立場からすれば納得が行かない。銀行、証券会社、保険会社のセールスに辟易とした人の多くは「あんたがたくさん売れば、あんたが誉められるのでしょ」と感じた経験があるからだろう。
では、どうすれば良いのか?
顧客の利害とセールスの利害が一致する営業戦略を考えることにすべては収斂する。これは金融のセールスを覆す。そのためにはセールスが売るべきプロダクツに対して一切利害を持たないという状況を作り上げるべきである。顧客の預かり資産の平残に対しての報酬のみを報酬の座標軸とするのである。どこの何を売ろうとかまわない。とにかく預かり資産を増大させた人間が勝ちであるというセールスカルチャーを持たせることだ。顧客は自分の金融資産が増えればハッピーであるし、そうなればセールスもハッピーであるという状況を作りだし、両者が深い信頼で結ばれることを目指すのである。営業と運用サイドを切り離さなければ、利害の衝突は乗り越えられないし、本当に深い信頼を資金を預ける顧客との間に築き上げることは困難だろう。
ではどこで儲けるのか?一つは資産額に応じたフィーを収受する体系を作り出すこと。ホールセーラーのプロダクツを売ることによるコミッションをホールセーラーから収受すること。この2つを収益の源泉とすべきであろう。自らの運用部門も市場に存在する運用主体の一つとして割り切るのである。今まで銀行は自らが運用する資金を調達するために資金吸収の営業を行ってきた。しかし、この感覚を捨てる日がもうやってきた。ホールセール運用部門に対しては「資金を集めたければ魅力的な運用をし商品を開発しなさい。身内だからといって差別しません」と言い放てばよい。
今世間では銀行員に対する信頼が揺らいでいる。今銀行に唯一残された個人顧客からの信頼回復の手段は「私たちの個人営業部隊は銀行のことを考えていません。お客様の幸福が営業担当者にとってすべてであり、そうすることによって営業担当は報われる体系となっています。」という強いメッセージを顧客に対して打ち出すことだろう。それを所与の条件として、企業が生き残る戦略を考えるのが銀行経営に求められることである。そういったMarket Drivenの企業体となった銀行のみが個人顧客の市場で生き残れることとなるだろう。
果たしてそういう英断を下せる銀行が何行日本には存在するであろうか。見物である。