新たなる合成の誤謬
May 25, 1999
住友不動産が保有する5棟のオフィスビルを証券化し250億円を公募債券発行により調達をすると報じられた。不動産の証券化はここ何年か重要なキーワードとなっており、今回のディールはその中でも本格的なCMBS(不動産担保証券)に先鞭をつけるものと高く評価できるだろう。
今後もこのような証券発行が続き、日本に不動産ファイナンス市場が確立されることを心から望んでいる。
今、日本の不動産市場に必要なものは市場に対する流動性の供給であり、適正なる価格を形成するファイナンス市場の成立である。なぜならば、日本の多くの機関投資家は低金利で運用難にあえぎ、投資先を求めている。不動産ファイナンス市場が合理的なマーケットとして確立すれば、1,200兆円と呼ばれる日本の個人金融資産の一部分が不動産市場に流れ込み、流動性不足にあえぐ不動産市場にとっては朗報となり、金融資産も妥当な運用市場を見出すという一挙両得が達成でき、凍り付いていた資金の流れが再度動き始めるのである。
しかし、この証券化市場の成長を遮るのではないかと私が心配する動きが市場に現れている。
それは、公的資金の導入を受けた大手銀行のノンリコースファイナンスへの取り組みの動きである。公的資金導入にあたり一定額の収益達成と中小企業向け貸出の増加を公約した大手銀行は、その公約の達成に向けて大変困難な状況に直面している。金融監督庁のガイドラインに代表される厳しい資産自己査定を行えば、収益が見込まれる中小企業向け貸出は2分類以下の債権として取り扱われる危険性が高いのだ。せっかくスプレッド収益を上げたとしても、引当実施によるコストによって収益が結果的にはあがらないというジレンマである。
そこで賢い銀行員諸兄が見つけ出したのが、不動産投資用特定目的会社(SPC)に対するノンリコースファイナンスの提供である。
SPCは貸出のカテゴリー分け上、中小企業に分類されることから、ノンリコースファイナンスをSPCに貸し出せば政府に公約した中小企業向け貸出残高の増加目標は達成することができる。加えてノンリコースローンのスプレッドは2~3%程度が一般的であり、十分なスプレッド収入が見込める。また、SPCによる不動産投資は他の負債が存在しないこともあり、一般的には極めて高い格付けを取得できるなど貸出の信用性としても問題が少ない。まさに、上記のジレンマを一気に解消するすばらしい貸出がSPC宛ノンリコースローンである。
しかし私はこの動きは大きな問題を抱えていると考える。
米国の不動産ファイナンス市場が大きな成功を収めたのは、銀行が自らのバランスシートを利用して貸し出しを増加させたからではなく、流動性が十分に確保されたCMBS市場が生み出されたからである。市場を通じリスクに応じた適正なる価格形成と、保有債券の市場による売却という投資の出口が確保されるという2点が重要なポイントなのである。リスクテイカーである機関投資家と資金ニーズをもったエクイティー投資家が出会う場所が確保され、貸し渋りのような一部金融機関の恣意的な行動によって流動性が枯渇するという危険性なく、常に資金調達が当然の対価を支払えば行えるという枠組みが米国の不動産市況の復活を作り出した。
ところが、前述した大手銀行によるオンブックベースでの不動産ノンリコースファイナンスが大規模に行われたらどうなるであろうか?不動産担保証券市場の確立の前に、スプレッド競争が激化し、市場による合理的な価格形成が行われるチャンスは失われるであろう。またオンブックベースでの貸し出しは5年程度はバランスシートの中に留め置かれ、将来一気に到来する期限の際に金融市場ならびに不動産市場を再び混乱に陥れるのではと危惧する。
バブル経済の崩壊によって不動産貸出であれだけの打撃を被った日本の銀行が再度不動産貸出を行っていくことは、正直不思議なものだ。もちろん、バブル崩壊によって学んだ様々な経験を活かして再度チャレンジするということなのだろうが、不動産という資産に直結した貸出が流動性を持たず、投資の出口を持たなかったということによって被った打撃をもう忘れてしまったのではないだろうか?
これは貸し渋りと同様の、新たなる合成の誤謬と呼ぶべき問題であろう。