第2分類債権の行方
July 6, 1998
どうも最近の世間の論調を見ていると第2分類債権というものも不良債権であるといった誤った議論が目に付く。
第2分類債権も公表しろと日銀総裁や経済界の代表も発言しているようであるが、私はそれに絶対反対である。第2分類の公表を強制することは日本の経済崩壊の引き金を引きかねないと思っているのである。
その理由を述べてみよう。
ここ何年かの厳しい銀行批判で銀行の経営陣には「これ以上不良債権額が多いなどといって株価が下落したり、世間から叩かれることはうんざりだ」という被害者意識が強くなっている。(これが正しいことか間違っているかという点に付いては議論があるだろうが、それはここでは議論しない。)
第2分類を公表したときに、自分達の銀行の第2分類債権額が突出していた時に生じるマイナスの影響を考えることによって、とりあえず何でも良いから第2分類債権額を早急に圧縮することを最重点課題にするように指示を出す。
この指示を受けた営業担当は、第2分類債権を圧縮するために考えられる2つの方法を実行しようとする。
この2つの方法とは(1)第2分類に該当する債権の回収(2)優良担保でカバーされる部分は非分類となることから、優良担保の追加取得を行う。というものである。まず通常であれば(2)を行った後に(1)を実施することになるのだが、この不景気に加えて地価下落によりそうそう担保に余裕がある企業は多くない。ということで、自ずと(1)による債権回収を強烈に推し進めることになる。
第2分類債権は延滞債権ではないので、直ちに法的手続きを取るといった回収はできないが、短期の運転資金で第2分類に該当する貸出の期限到来毎に延長を拒絶して回収を行うということになるだろう。
一般に第2分類に該当する債務者は赤字先、業況不振先である。こういった会社に運転資金の供給が細ったらどういう結果が訪れるだろうか?それは間違いなく資金繰りの破綻による倒産であろう。
今年の3月期末の自己資本比率達成のために未曾有の貸し渋りが発生したことは記憶に新しいが、第2分類債権額の公表は3月末の比ではない貸し渋りを引き起こす。なぜならば、自己資本比率は様々な資産量やBISの規制でのリスクアセットなどが絡み合って算出されることから、必ずしも貸し出しの圧縮だけという方向へ動いたわけではない。しかしながら、第2分類債権額の公表は極めて直接的な数字で現れる。更に8%という絶対的な水準が問題となるのではなく、あくまでも他行との相対的な比較が問題なのである。8%を越えれば良いと言う限度が無いのである。究極的な理想は第2分類額ゼロなのだ。こういった背景から日本中の銀行員が雪崩をうって第2分類債権の回収に走ることは予想に難くない。
これ以上回収したら取引先が破産してしまうという状況に陥っても更なる回収をするのか?という問いかけがあると思う。私は「YES」が答えであると考える。理由は簡単である。一つの銀行が回収の手を弱めたとしても、その取引先が生き延びる保証はどこにもないからだ。他行が回収の手をゆるめないのであれば、自分もゆるめない。もし回収の手をゆるめて、他行がその分回収を進めて、結果として破産に至った際には自分のところの第2分類ではなく、破綻債権額が増えてしまうのだ。こんな状況にある取引先がいたら、何をしても回収しまくるのが今の銀行員にとってのミクロの局面における正しいあり方なのである。
当然、こんなやり方が長いこと続くわけはない。本来の正統派の対応は、リスクに見合ったリターンを選られるように金利引上げの交渉を行うことなのである。第1分類債権だけでは到底銀行の損益は回っていかないのである。しかし今の社会情勢はそういった悠長なやり方を許すとは到底思えない。したがってひたすら回収なのである。
本来金融というものはリスク仲介がその本質である。そういう意味では間接金融がもっとも有効に機能する分野は第2分類債権のような部分なのである。それを魔女狩りを恐れるように疑心暗鬼に陥っている銀行に公表させることは、日本の間接金融の仕組みを根底からぶち壊すことに他ならない。それが望みであれば私は止めないが、その先に待っている結果は身の毛もよだつものであろう。
ブリッジバンクはそれを防ぐためにできたのだ、と主張する方がいるかもしれない。理論ではその通りである。
しかしそれはあくまでも机上の空論であろう。いったん破綻状態にあると認定されてブリッジバンクが正常に機能するまでにはどの位の時間がかかるであろうか?もし3ヶ月かかったとしよう。資金繰りが苦しい会社が潰れるには十分すぎる時間である。誰がブリッジバンクの体制が確立するまでの間に第2分類先である会社に資金供給をするための貸出決定をする勇気を持つだろうか?誰もいないだろうし、そういう決定を下せなかったといって誰がその人を責めることができようか?
またメイン銀行がブリッジバンクになった第2分類債権がある取引先があったとしよう。私がメイン銀行以外の銀行員であれば、まず最初にすることは貸出の回収である。なぜならば、ブリッジバンクが機能するまでの当面の間、その取引先にはメインバンクが無くなったということになるのだから。そういった取引先はメインバンクが無いまま、他行の回収の嵐の中で間違いなく沈んでいくだろう。
4年前に今の金融再生トータルプランが提示されれば、何の躊躇も無く私は賛成したであろう。しかし、もうあれほどのハードランディングをする体力は日本経済には残っていないのではないだろうか?日本経済の足元を支える中小企業に壊滅的な打撃を与える結果に終わり、何とか日本経済を維持していた製造業セクターすらも力を失うような結果が待っているように思う。
では、どうすれば良いのか?
30兆円全額を今すぐに大手19行に優先株として資本注入し、30兆円全額を不良債権の償却に使うことを義務付ける。
金融機関が3、4分類と判断した貸出の無税償却は原則全て認める。
日本版REITを直ちに法制度化し、2重課税が発生しない形での不動産投資金融商品を認める。
年金資金の投資規制を緩和し一定割合までの日本版REITへの投資を認める。
金融システムリストラのハードランディングをしつつ、1,200兆円の資金を不動産市場に流し込み、景気の回復を図ることが最大のポイントなのです。もはや一刻の猶予も無いと世間では言われています。私はむしろ中途半端な猶予でなく、巨額の資金を投入することによって景気回復が可能となるまでの十分な猶予を手に入れることが日本にとってベストな処方箋だと考えるのです。