変革の波
October 22, 1998
大手行への大規模な公的資金注入がやっと動き始めたようである。
日本興業銀行がまず手を挙げ、それに続いて大手都銀数行も追随する方向性を示し始めた。総額がどの程度の規模になるかはわからないが、極力大きい金額の注入が行われることを祈っている。
以前の言いたい放題にも書いたように、まずは金融セクターの過少資本状態を解消してマネーの流れを正常化することが極めて重要であると考えていた。今回の資本注入によって完全に金融セクターの動揺が完全に収束するか否かはわからないが、少なくとも10兆のオーダーの資金が投下されることは、多少なりとも市場関係者の不安感の払底に資するものとして歓迎できる。
しかし、この資本注入によって「貸し渋り」が完全に収まるとは私は思っていない。
現在の「貸し渋り」の状況は、資本が毀損している邦銀大手行が自己資本比率を確保するために行っているという側面がクローズアップされてはいるものの、かならずしも資本毀損ばかりが理由ではない。早期是正措置の実施によって、日本の金融機関は今までとはまったく異なったスタンダードでの融資の世界へと踏み出していることも相当大きな理由になっているはずである。これに伴う「貸し渋り」は、公的資金の注入によって自己資本が充実されたとしても解消されないのである。早期是正措置は景気中立政策ではない。自己資本の不足による貸し渋りが収束したとしても、早期是正措置の実施に伴う企業金融におけるパラダイムシフトの影響は吸収しきれない。
日本企業の資金調達における特徴は間接金融への依存度が高いことである。護送船団方式によって超過利潤を得ていた日本の銀行が、その超過利潤に依拠して日本企業に対して実際のリスク対応のコストより低利で安定的に資金提供を行い、日本企業はこれによってトータルでの資金コストを押さえ、収益構造を維持してきたわけである。
しかし、早期是正措置に伴って、銀行は今までよりもはるかに融資スタンダードを厳しくし、リスクが高いと思われる取引先に対しては、貸出金額を絞り込み、加えて貸出金利の引上げを行っている。護送船団方式による低コストの資金がもはや所与のものとしては得られなくなったのだ。これは日本の企業にとっては大問題である。今までの収益構造では生き残っていけないということなのである。金融行政方針の変更によって日本企業全てが収益構造の変革を迫られることになったのだ。当然ながら、この収益構造の変革についていけない企業は退場を余儀なくされるであろう。しかしながら、日本企業の国際的競争力維持という観点から考えれば、これは決して間違った方向ではなく、高度成長期のシステムが持つ贅肉を削ぎ落とすという点において優れて正しい政策である。
現在の世間での論調、特に政治家の主張を聞いていると、この視点が完全に欠落している。
「公的資金注入=貸し渋りの解消」でなくてはならないと声高に主張する政治家が多いが、保証しても良いがそのようには絶対にならない。むしろ、彼らが本来主張すべきなのは、日本企業の収益構造の変革をサポートする政策の提案なのである。
それは、リストラの痛みを減じるための景気浮揚策であり、間接金融の依存度を低めるための企業金融市場の振興策であり、リストラによって企業をスピンオフさせられた人材が新しい事業を始めるためのサポートの提供であり、新しいビジネスを生み出す機会を拡大するための様々な規制緩和であろう。
そして、政治家だけではなく日本人一人一人が高度成長期に確立されたシステムが根底から変る状況に直面していることを認識し、いかにして新しい時代をどうやって切り拓き、自らが生き残っていくのかということを真剣に模索しなくてはならないのだ。