劣後ローン
November 4, 1997
三洋証券が会社更生の申請を行った。事実上の倒産である。
申請の最大の理由は自己資本比率を維持できなくなったことである。そのきっかけとなったのは、本来debtであるがその劣後的な性格により資本比率算出にあたってequityと同様の取り扱いを受けていた生保9社からの劣後ローンの最終期限までの期間が1年を割り込み、equityとしての取り扱いをうけられなくなったことにある。
この劣後ローン、多分というか確実に全滅であろう。一般債権すらカットになるのだから劣後債権に返済がある訳が無い。劣後ローンを供与していた生保会社には慎んでお悔やみを申し上げたい。
この劣後ローンについて考えていたとき、ふと疑問に思った点がある。いったいどの程度の金利水準で貸し出されていたのだろうか?元本がふっとぶことは致し方無いと目をつぶろう。劣後ローンなんだからしょうがない。では、そのリスクの対価としてどういったリターンを得ていたのだろうか?
株式市場で2桁の価格をつけている業績低迷、明日をも知れぬ会社が沢山ある。正直なところ三洋証券はそのお仲間であった。当社と同じようにすでにお亡くなりになってしまった企業も何社か存在する。そういった会社が発行している無担保社債のリターンはどうなっているだろうか。はっきり言ってとてつもないイールドとなっている。この超低金利の時代にそれこそ数十%の世界だ。しかしあくまでも、これは一般債権。
その更に下に位置付けられる劣後ローンであれば、もはや年率100%といったプライシングがなされていても決して不思議ではないだろう。こういったざっと市場を見渡してある程度納得がいく金利水準が適用されていたのであれば、別に元本が吹っ飛んでも私は文句を言うつもりはない。十分にリスクの対価を頂戴していたわけであるのだから。
しかし到底そうは思えない。LIBOR+なんとかBPで語ることができる程度のレベルだったに違いない。(普通BPで1000BPなんて言う奴はこの世にはいない。そういうものは10%というのだ。)
ではなぜそんなプライシングがなされたのだろうか?
もちろん劣後ローンを供与した生保会社だってつらいはずだ。当局が責任を持って再建計画を作って面倒みるからという言葉で、元本が吹き飛ぶリスクは小さいと判断して金利水準を下げたはずだし、更には何度も期限延長までしてしまったのだから。
しっかりその約束は反故にされた。そして会社更生である。ミスプライシングされた劣後ローンは無残な屍をさらしている。
通常の企業取引でここまで約束を違えたら、そこには何も残らない。あるのは罵詈雑言と村八分と訴訟である。しかし御上は気楽なもので、大蔵大臣がのこのこと夜中に出てきて「業界やらメインバンクの皆さんこーしなさい、あーしなさい、首相もそう言ってるからよろしくね」と言って終わりである。
劣後ローン提供に関して生保へ話をつけに言った奴はこいつで、その判断をしたのは最高責任者である大臣の私です。責任を取って辞職しますし、私財を投げ打ちますので、どうかお許しください。くらいの事は言えないのだろうか?
自分達の一言がプライシングにどういう影響を与えることすらわからない。そもそもリスクリターンの関係すらもわかっているかどうかすらも怪しい。何かのアクションを採っても責任すら負わない。そんな人達に金融行政を行ってもらいたくはない。直ちにすべての権限を返上し市場から身を退いてもらいたい。
司法の手に処理を委ねることによって日本の金融市場の透明性は一歩増したという意見がある。それは否定しない。
しかし今回のケースは司法手続きに入ることに行政の積極的な方向付けがあったとは到底考えられない。どうしようもない、身動きの取れない状態に立ち至って、やむなく会社更生手続きに入ったとみるのが妥当であろう。法が本来規定している救済措置によらざるを得ない局面はもっと早い段階で到来していたはずである。なぜ、そこで司法に処理を委ねなかったのか?行政の奢りである。この行政の奢りを徹底的に糾弾し、その責任の所在を明確にしない限り、真に日本の金融市場が透明になる日はまだ遠いはずだ。
劣後ローンの屍の意味することを日本の金融市場に関わる人間は決して忘れてはならない。