ニューヨーク州弁護士 木下 泰
執筆にあたり読者層としてイメージしたレベルは米国関連のファイナンスをある程度の期間行った経験があるローンオフィサーが自分の業務手法を再度見直すにあたっての指針として用いるといった物です。従って初学者あるいは全くの実務経験の無い方には専門用語の内容がわからないと言った不満もあるでしょうし、純粋に法律論文的な視点から見た場合には論理構成などで甘いという批判を受ける点や判例等の引用が無いという指摘あると思いますが、読者レベルを決定する観点から止むを得ないものと割り切っております。
ここ何年かのあいだアメリカにおいて貸し手責任(Lender Liability)とい う言葉が銀行員達を震え上がらせてきました。
資金を融資しておきながら借入人から訴えられるなんて不合理な話しがある ものかという怒りの声が聞こえてきそうですが、裁判所がそのような判決 を下しはじめたのですから指をくわえて見ているわけにはいきません。対応と してはまず最初に貸し手責任というものは何に基づく責任なのかを知らなくて はいけません。
それでは一体どんな法理に基づいて貸し手責任が問われたのでしょうか?判 例法を重視するアメリカでは「貸し手責任に関する法律」という明文化された 法律があるわけではありません。判決として様々な法理の適用が蓄積されて貸 し手責任に関する法分野が確立されてきたのです。その代表的なものを上げて みましょう。
以下にそれぞれについて説明を加えます。
都合の悪いことに州によってはこのimplied covenantの違反が単に契約違反 とされるばかりではなく、不法行為(Tort)であると解され懲罰的損害賠償(*1)が課せられる危険性があります。
*1懲罰的損害賠償(punitive damage) 不法行為の内容が悪質であった場合に、懲罰的な意味合いを含め実際に発生 した損害の数倍にも及ぶ賠償をさせること。賠償額は通常陪審員によって決定 されるためどの程度の金額になるかは予測不可能である。
この法律は汚染物質(例えばアスベストなど)が存在する物件の所有者ある いは管理者(owner or operator) が当該汚染物質を除去する責任があることを 定めた法律であります。この法律の所有者あるいは管理者の定義によれば物件 上に担保権を有する貸し手は除外されておりますが、担保権の行使によって貸 し手が物件の所有者となった場合、貸し手が所有者の経営をコントロールした 場合は貸し手もCERCLAにおける責任を負うことを義務づけております。
したがって、担保権を設定する場合に当該担保物件の環境調査 (Environmental Survey)が大変重要になってきます。
これ以外の連邦法上の責任としてあげられものがRacketeer Influenced and Corrupt Organizations ("RICO")およびMail Fraudがありますが特に重要な問題点ではないことから説明は省略します。
通常ローンの手順は
それではまず貸出条件を巡る交渉に留意しなくてはならない点を中心に話しを進めていきます。
当たり前のことを今更の様に言ってというご批判があるかもしれませんが、 いつでも基本に立ち戻ることは実務においては大変重要なことです。少なくともこの大原則を 順守していればBreach of Contract(契約違反)、Fraud(Misrepresentation) (詐欺/瑕疵ある表示)という借入人からの訴えには反論することが可 能です。
どうしても成約させたいローン案件で長い時間をかけて交渉事をしていれば 必ず一つや二つグレーだと思うことでも、交渉のモーメンタムに負けてつい言 ってしまうことがあるはずです。
必ずしもその一言が決定的な要因になるということはありませんが、その他 の証拠と複合されることによって貸し手側の責任を立証するために使われてし まう可能性があることを心に留めて交渉に臨みましょう。
いくつか実例を挙げて考えてみましょう。
この発言には2つの問題があります。
1つはあなたの銀行が本当に不動産プロジェクトに相当の経験を有している のか否かということです。もしあなたの銀行が不動産プロジェクトでの相当の 経験(expertise)がなければ、これは瑕疵ある表示(Misrepresentation)となり ます。経験がないことを承知の発言であれば詐欺(Fraud) とも取られかねません。
もう1つはプロジェクトに絶対間違い無いということはありえません。もし プロジェクトが失敗した際に「経験のあるプロのおたくが絶対間違いないって いったから、それを信用したのに」と借入人から言われたらどのように抗弁し ますか?この世の中に絶対ということはありません、「絶対大丈夫」「絶対問 題ありません」というような発言は大変危険です。
本当に最後まで面倒を見るつもりがなければこんな発言も危険です。場合に よっては「最後まで面倒を見る」ということはローンを継続し続けること、あ るいは不足資金まで面倒をみること取られかねません。最悪の場合はいつでも 資金を引き上げることを念頭にいれて交渉を行なってください。
銀行と借入人は共同事業者ではありません。この発言が決定的な要因となる ことは考えられないものの、その他の状況も鑑みて銀行と借入人が共同事業者 (Joint Venture)であると判示される可能性も否定できません。
銀行と借入人が共通の利益(interest)を持つのは、言い換えれば「銀行はロ ーンを増やしたい」「借入人は資金を工面したい」というお互いの利害が一致 するのはローンの実行まででしょう。最終的にトラブルが発生したときには、 「銀行は資金回収をしたい」「借入人は資金を返したくない」というように両 者の利害は全く相入れないものとなります。
将来にわたって守れない約束は上記の大原則どおり口にしてはいけません。 銀行のローンは出資(エクイティー)ではないのです。
交渉時点での発言は最初に述べたようにそれ自体で貸し手責任の根拠となる ことは極めて稀であります。しかしながら、取引全体を包むセンチメントとい うものは交渉の時点で大方決められといっても過言ではありません。したがっ て交渉での不用意な発言が将来トラブル発生時に当該取引全体を不公正なもの (unfair, bad faith) に思わせてしまうという危険性を内包しているというこ とに留意する必要があります。
基本的に借入人にとって有利に聞こえる発言は銀行にとっては貸し手責任の観点か ら見れば危険な発言です。「多少は甘い言葉でもささやかなければ営業なんて できないよ」という営業サイドの声が聞こえてくるかもしれません。ですが、 それはあくまで営業トークであって実際に履行されるはずもありません。でき ないことを言って取引を成立させることが一番問題を引き起こすのです。繰り 返しになりますが公明正大な交渉を心掛けることが重要です。
借入人が理性的な判断を下せるのプロであればそんなおいしい話しが簡単に 転がっているはずもないことは簡単に理解できるはずです。逆に言えば甘い言 葉に釣られて取引をするような先は到底プロといえるような先ではないはずで す。そのような取引先とは取引をしないというのも一つの見識 なのではないでしょうか。
ローン交渉の話を致しましたが、交渉が煮詰まってくると いよいよローンコミットメントレター(融資確約書)の調印ということに なります。
ほとんどの金融機関ではコミットメントレターを締結する段階で実際の 融資と同じ内容の稟議がなされることになります。その理由としてはコミ ットメントレターを発行することは実際に融資したこととほとんど同じ意味を 持っているからです。
基本的には一度コミットメントレターをだしてしまえば貸し手側が融資 を断ることは極めて困難であります。コミットメントレターだからいいだろう、 などと軽く考えると大変な結果を生じることがあります。
それではこれからコミットメントレターに関しての問題点を説明してい きましょう。
アメリカの契約法では契約を構成するにあたっての重要点が明確に合意 されており、約因(Consideration) が存在すれば、口頭の契約であったと しても当該契約は有効に成立します。またConsideration が存在しない場 合でもその口頭での合意を契約の相手方(すなわち借入人)がその合意を 合理的に信じて何らかの行動を起こしていた場合には起こした行動の範囲 において契約は成立したと見なされます。これはDetrimental Relianceと言います。
従って口頭の合意であろうとも十分に コミットメントと見なされる可能性がある訳です。この危険性を回避する ためには口頭での交渉を行なったらすぐに議事録を作成し、論議された内 容を整理し相手方に送り付け、「論議の内容はあくまでも交渉のためのも のであり、決して契約として拘束力を持つものではない(issues discussed are only for discussion purpose and not binding.)」 ということを確 認することが重要です。このような議事録を作ることを習慣付けることは 言った言わないの議論を回避するうえでも極めて有効です。
取引にとって重要なことは全て盛り込まなくてはいけません。この時、 忘れてはならないことがどんな条件が成就すれば貸出を行なうかというこ とです。「このような条件がそろったらローンを行なう」ということを明 記しておくことによって借入人からのコミットメントレターに基づく融資 要請に対して「条件が成就していませんのでご融資はお断りします」とは っきりと抗弁できるようになります。さもなくば前述のとおりコミットメ ントレターを覆すことは極めて困難ですから、融資をせざるを得なくなっ てしまいます。
具体的には以下のようなものが考えられます。
株式会社であれば設立地まで明記します。(例、XYZ Corp, a Japan corporation) パートナーシップであれば設立地、パートナーの氏名、ゼネラルパート ナーかリミテッドパートナーかの区別も必要です。
シンジケーションが行なわれるような場合は参加者は貸し手が自由に決 められと言うように規定することが望ましい。
通貨の指定も行ないます。同時に貸出方法(分割が可能か?)等も規定します。
変動金利であればベースレートを規定する。(例えばLIBORとかTIBORと か)
タームローンなのかRevolving Facilityなのか等。
期限一括(BULLET)か、内入れがあればそのスケジュール。
期前弁済は可能か否か。ペナルティーはあるか。
使途制限がある場合は明記する。(例えばプロジェクトファイナンス等)
保証の範囲の制限がある場合は明記する。
総括的に記述することが望ましい。担保不足を防ぐためにキャッチオー ル条項を入れることが望まれる。(例、XXビルの土地建物という表示の 仕方よりも、XXビルに関して借入人が保有する一切の権利と記述するほ うが範囲は広くなる。)
極力具体的な財務指数を盛り込む。(例えば自己資本比率など)
コミットメントの開始時期と終了時期の明示。延長をする場合は必ず書 面をもって延長を行なう旨明記する。
コミットメントレターは無条件で融資を実行するものではありません。 普通幾つかの条件が満たされたときに融資が実行されるようになっており ます。
では貸し手側を守るためにはどのような条件を入れることが望ましいの か、又条件が満たされないときにはどのようにして融資実行を断ればいい のでしょうか。
これを忘れるといつまでもコミットメントが有効なことになり、忘れた ころに融資実行を請求されて大慌て等ということになります。入れ忘れてし まった時にはコミットメントを取り消すために十分な書面による事前通知 を相手方になすことが必要になります。
巨額のローンになると主幹事が参加行を募ってシンジケート団(協融団) を組成して融資をすることになります。市場の環境によっては当初予定し ていた金額がシンジケーションできないことがあります。その時にコミッ トメントが無効になる旨あるいはシンジケーションができた範囲で融資を 行なう旨の条項を入れ忘れていると主幹事が残額につき全責任を負うこと になってしまいます。
当該融資に関して貸し手、借入人の両方の弁護士が問題ない旨の意見書 を出すことを融資実行の条件にします。取引に関連して複数以上の国ある いは法域(JURISDICTION)がある場合はそれぞれの法律の弁護士意見が必要 になります。
例えば企業買収資金に関する融資などは当該買収が成功したときに融資 実行をする旨を明記します。資金使途に制限がある融資などではこの条件 を入れることによって資金使途以外の資金流用が防げます。
高レバレッジ取引(HIGH LEVERAGED TRANSACTION)、例えばレバレッジドバイアウト(LBO) 等では将来の詐欺的財産譲渡に関する訴えを防ぐために融資の実行のために支払可能意見書(SOLVENCY OPINION)を入手することが 必要になります。そのためにこの意見書の入手を条件としてあげておきます。
前述の通りにコミットメントレターを理由もなく取り消すことは 事実上不可能ですから、考え付く融資ができなくなる条件は全てコミット メントレターに入れるようにします。こんな当たり前のことは書かなくて もいいだろう、という気持ちの油断が後で大惨事を引き起こします。参考まで に個条書きで抜き出してみます。
その際にどの条件が成就されないために融資が実行できないかの理由を 明記します。拒絶の通知は借入人だけでなく関係者全員に送付するように しましょう。場合によっては借入人がコミットメントレターを取引先に提 示してその他の取引の交渉をしていたりします。その借入人の取引先にも 融資が拒絶された旨を通知することは大変重要です。
貸し手責任の法理でも述べたように契約当事者は善意にしたがって公正に取引をな すという黙示の制限(IMPLIED COVENANT OF GOOD FAITH AND FAIR DEALING) が存在しています。あまりに非合理な理由で融資実行を拒絶した場合には この制限の違反となり貸し手責任を問われます。
このことから条件は出来るかぎり客観的なものであることが望ましいと いうことが言えます。例えば「経営が安定していること」などを条件にす るよりは「自己資本比率がX%以上あること」あるいは「X期連続して赤 字を計上していないこと」などの客観的な条件設定が望まれます。
コミットメントにあたってはコミットメントフィーなどと呼ばれる手数 料を貸し手が収受することがあります。このような手数料を融資を拒絶し た場合にどのように取り扱うかについてコミットメントレターの中に規定 しておく必要があります。さもなくば、手数料の取扱いを巡って騒動が起 きることになります。
通常の融資契約の場合費用については借入人が貸し手の費用(例えば弁 護士費用、通信費、)を負担することになっています。上記の手数料の問 題と一緒で融資を拒絶した場合には費用負担をどのように取り扱うかを明 記しておきましょう。
コミットメントに期限がついておりその期限が到来した場合にも融資を 拒絶したときと同じように関係者全員に書面でコミットメントが期限切れ になったことを通知します。
さてローンコミットメント(融資確約書)まで話が進んでまいりまし たので、融資契約書の作成についての総論的なお話をしたいと 思います。その後、各論として貸し手責任を引き起こす危険性のある具体的条項 について述べていきたいと思います。
貸し手責任の観点から考えますと余程理不尽な契約内容(例えば明確に貸し手 が経営を支配するような条項等)でないかぎり契約書そのもが貸し手責任を引 き起こすことは考えにくいと言われております。むしろ契約条項をどのように 履行させたかという方法が問題になることが多いと言われております。
英語の契約書と言うと、膨大な契約書をイメージする方が多いと思い ますが、そう言った契約書は法律事務所を儲けさせて、将来問題を引き起こすもとに なるだけです。難しい単語を使わず極力簡単で簡潔な契約書を作りましょう。 契約当事者が理解できないような契約書を作っても何の意味もありません。
自分で内容がわからないような契約書を使ってしまうと、実際には契約書上 デフォルトが起きていたとしても当事者が誰も気づかないことが起こったりし ますし、貸し手が取らなくてはいけない手続きを忘れてしまったりします。そ んな時に不利になるのはデフォルトが発生しているにも係わらず何にもアクシ ョンをおこさない貸し手になってしまうのです。
むりやり定型の契約書を使って実際の取引の内容とかけ離れてしまった契約 書ができてしまうことがあります。契約書は当事者間の合意事項を将来のため に確認するものです。契約の内容が実際の内容と違っては意味がありません。 弁護士費用を節約するばかりに定型の契約書を無理して使うようなことは絶対避 けましょう。
又将来当事者間で紛争が発生した際には契約書内容が最大の関心事となりま す。あまりに複雑な契約書を作ってしまうと裁判で裁判官や陪審員にいくら説 明しても契約の内容を理解してもらえないばかりに不利になったりすることも 考えられます。
コミットメントレターには重要な内容がほとんど網羅されております。その 内容を契約書作成の段階になって突然変えると、コミットメントがあるにもか かわらずその履行がなされなかったと問題になる可能性があります。したがっ てコミットメントの内容と融資契約書の内容が異なる場合には、その旨を融資 契約書に明記して、変更が一方的なものでなく借入人もその変更に同意した旨 を明確化しておくことが重要です。
契約書の作成に当たっては借入人或いは保証人などに十分な時間を与えて契 約書内容をチェックさせましょう。その際に借入人にも弁護士を雇わせ独自の 判断で契約を締結したことを担保しましょう。将来、銀行が十分な時間も与え ず無理矢理契約締結を迫られたというクレームを防ぐことができます。
例えば融資実行の30分前に銀行の制定の契約書フォームを見せて、借入人 に「黙ってこれにサインしろ、文句があるなら融資しないぞ」などというやり 取りは貸し手責任を追及させる典型的なパターンです。両当事者が対等な立場 で契約を行うことが貸し手責任を回避する重要なポイントです。
通常の契約書にはMERGER CLAUSE と呼ばれる条項が挿入され、契約締結まで の一切の交渉は当該契約書に含まれ、当該契約書のみが両当事者間の合意内容 を示すものである旨が規定されます。せっかくこのような条項を挿入したにも 係わらず、やたらと覚書を乱発すると、覚書の内容と主たる契約書の内容が齟 齬を来す事態が往々にして発生します。
このような事態を回避するためには無用な覚書は作らず、すべての内容を 契約書に忘れずに盛り込むようにします。万が一サイドレターを締結する必要 がでてきた場合には全当事者がそのサイドレターに調印するようにしましょう。 「そんな覚書は知らなかった」と言う契約当事者が後で現われて大騒ぎになることを未然 に防ぎましょう。
又「とりあえずは形式だけでも契約書は作らなくてはいけませんか ら、いろいろ難しいことが書いてありますが、要はこの間ご相談した内容です から、ご心配なく」などという発言を借入人にたいしてなしてはいけません。 契約書は形式で作るものではなく両当事者の合意内容を記録するためのものな のですから。何度も繰り返しますが口頭の約束も十分に法律上では契約の成立 と見做されるのです。
これは正に貸し手が借手のビジネスを支配したと言われかねない条項 であります。貸し手責任を免れるためには借入人のビジネスは独立したもの でなくてはなりません。貸し手が支配をしているということが貸し手責任の なかで最も多いクレームの一つであります。
具体的な問題点としては(1)貸し手がFiduciaryとしてのスタンダードを 遵守することが要求される。(2)貸し手がCERCLA(スーパーファンド法) 上のOPERATORとして取り扱われてしまい、CERCLAにおける貸し手の例外規定 の適用がなされず環境汚染などに係わる費用負担を要求される恐れがある。 (3)借入人と取引を行っている第3者から本来ならば借入人が負担すべき 債務についてまで貸し手が請求される可能性がある。(貸し手と借入人が共 同事業者であるという主張。)
MATERIAL ADVERSE CHANGE の内容を客観的な物にしておかないと貸し手の 恣意によってデフォルトを発生させることができる不公平な契約であるとい う主張がなされます。例えば「経営状態が極めて悪化した場合」とか「資金 繰りの破綻が間近になったとき」などという表現を採ることは避けるべきで す。
むしろ「純資産額が**以下になった時」「デット/エクイティーレシオ が**以下になった時」「当初提出のキャッシュフロー予測から**%の乖 離が発生したとき」「予想損益からの乖離が**%になった時」「特定の顧 客(契約上に明示する)との契約関係が解除された場合」「特定された特許 権が失われたとき」等というように極力具体的かつ客観的な基準を設けてデ フォルト事由にすることが望まれます。
米国の幾つかの州では陪審裁判放棄条項は無効であるとされています。無 効であった場合には借入人側から、貸し手と借入人が対等な関係でなく、貸 し手が無理矢理契約条項を押しつけてきたことを示唆する材料として用いら れます。陪審裁判放棄条項を挿入する際には管轄州法上条項自体が有効か否 かを確認し、無効であるようであれば削除することが望ましいと考えられま す。
また、幾つかの条件を付けたうえで陪審裁判放棄条項が有効であるとする 州もあります。その条件とは(1)両当事者が対等な交渉関係にあったこと (2)放棄条項が入っていることを借入人が明確に認識していること等です。 (2)の対応方法としては放棄条項の横に借入人のイニシャルをサインさせ ることが一般的です。
仲裁条項にはメリットとデメリットがあります。以下にそれぞれに分けて 述べます。
懲罰的賠償額を抑さえることができる。
専門家が仲裁人となるため事実認定が陪審裁判よりもスムーズに行える。
紛争の内容が外部に漏れる恐れがない。(両当事者の合意がなければ内容は発表されない。)
ALL OR NOTHINGという判断よりも双方にそれぞれ妥協を強いるような判断が出やすい。
借入人にとっての資金負担が正式裁判より少なくてすむ分簡単に申し立てが行われる。
証拠開示の手続きが限定されたものとなっている。
仮処分(INJUNCTIVE RELIEF) が存在しない。
ローン契約書にはパーティシパーションがなされることは明示する必要が あります。また一部のローンドローのためにパーティシペーションが必須条件に なっているときはコミットメント段階からパーティシペーションが行われな かった場合にはローンドローが出来ない旨を明示しておく必要があります。
エージェントやリードレンダーの義務や責任、またパーティシパント内部 での意思決定の方法も明示しておかないとパーティシパント内での責任の所 在がはっきりせず問題を引き起こすことがある。通常はエージェントの善管 注意義務はDISCLAIMERによって放棄されているケースがほとんどであります。
全当事者(含む保証人)が独立した弁護士を雇って、取引の内容を十分に 理解したうえでクロージングに臨むことが重要であります。特に保証人について は軽視されがちであるが、弁護士を雇わせて独立して取引の内容をチェック したという事実を作っておくことが将来貸し手側から一方的に押しつけられ た取引であるというクレームを打ち破るための重要な材料となります。
クロージングの際に簡単な口約束で取引の内容を変更しないこと。変更す る場合には必ず書面で変更を行い、全当事者に署名させることです。
CONDITION PRECEDENT が成就しているかを確実に確認しなくては行けませ ん。もし成就されていない条件があっても取引をクローズさせるためには WAIVER(放棄書類)を作成して不成就の条件があるにも係わらず取引をクロ ーズする旨を明確にします。またクローズ終了後まもなくして成就するよう であれば、その旨を書面にして記録しておき、実際に条件が成就されたかい なかを確認することを忘れないようにします。
残る話題はローン管理とワークアウトであります。ではローンのクロージング後の管理についてご 説明しましょう。
ローン契約書は当然のこと、関連する書簡(ファックスも含む)を綺麗に ファイルしておきましょう。何らかの問題が起こった場合に頼りになるのは 自分で持っているファイルだけです。相手との訴訟を開始したり仲裁を行っ たりする作戦の立案の第一歩は関連ファイルを全部読み返すことから始まり ます。長期に渡るローンですと担当者も何人も変わっていき、取引の経緯が 全くわからなくなってしまうことがあります。この際にファイルがしっかり していれば少なくとも取引の流れだけはファイルを読み返すことによって新 任の担当者は把握することが出来ます。
裁判では口で言った、言わないということの立証は極めて困難であります。 従って借入人とのやり取りは基本的に全て書面に残すようにしましょう。例 えば電話で話をした後なども「先日の電話での会話の内容をまとめたメモラ ンダムであります。内容にご不満があればご連絡ください云々」という記録 のためのレターを作成して送付し、そのレターをファイルに保管しておくこ とが重要です。
但しその際に書面の内容については注意して作成してください。感情的な 表現や相手を脅かすような表現をした書面が残ってしまうことによって将来 その書面が貴方にとって不利に働く可能性もあります。やり取りの書簡は将 来誰が見るかわかりませんので、実務的に無駄を排した書面にすることを心 掛けましょう。
また、一旦訴訟が開始されると裁判手続として証拠品開示(Discovery)によって借入人側(裁判上の相手方)からファイルの提出等の書類提出(Production of Documents)が要求されます。この証拠品開示にあたっては訴訟を前提とした弁護士とのやり取り、あるいは弁護士が作成した書類等は弁護士顧客秘匿特権(Attorney Client Privileged Communication)あるいは弁護士作業秘匿特権(Attorney Work Product)として開示が免除されます。従ってこの特権をうまく利用して書類作成を行っておけば将来万一訴訟になった際にも相手方に与える情報を減らすことが可能です。
借入人に関する信用照会(credit inquiries)があるときがあります。基本 的には貸し手側には回答する法的な義務は全くありません。(契約書などで 別途規定されている場合は除く)ですからリスクを回避するという意味にお いては「守秘義務の関係上、回答いたしかねます。」あるいは「ノーコメン ト」という回答がベストと考えられます。
しかしながら実際のビジネス上「ノーコメント」という回答はややもすれ ば「ひどくて回答できない」という予見を相手側に与える恐れがありますの で、留意してください。その際に「私どもでは一切お答えしないこと を方針としております」などという説明を加えれば、上記のような予見を防 止することも可能です。
それと同時に借入人に対して信用照会があったが、それに対して回答を行 ってもよいか否かの確認を行い、回答を行うということが考えられます。こ の場合は借入人側は多少なりとも良い回答をして欲しいという気持で回答の 内容について色々と注文を付けたりするでしょうが、これは一切考慮せずに 客観的な意見を述べるべきであります。但し、回答の内容については借入人 に対して通知することが望ましいでしょう。
一旦、信用照会に回答することを決断した場合には、信用照会を行ってき た相手方に対して真実を開示するという義務が発生しますので、重要な事実 などを省いたり、誤った情報などは提供しないように客観的な情報のみを提 供するようにしましょう。その際に、相手方がなぜ信用照会を行ってきたか という理由を確認することによって誤った情報が伝わることを防げることも 留意した方が望ましいです。
対応をまとめると、(1)基本的には回答しないように心掛ける(2)万 が一回答する場合には借入人の同意を得てから、全ての情報を開示するよう にする、ということです。
普通は期日に全額完済となってローン取引は終了いたしますが、不幸にしてトラブ ルが起こってしまったローンをどうやって取り扱っていくか(即ちどうワー クアウトしていくか)という内容を最後にお話ししましょう。
利払いが滞りそうだ、何らかの形で借入人から訴えられた、期限になって も返済が見込めない、という様な状況になった場合、現状のローンの内容を 変更したり、相手方からのアクションに対して対抗措置をとるなどの作業を ワークアウトと呼びます。
ワークアウトで重要なことは一度ローンがおかしいという兆候が現われた ならば、現行の担当者(含むライン)から当該ローンの担当をはずしワーク アウト専門の部署(ワークアウトオフィサー)への移管を行うことでありま す。、ローンを行った当事者は(1)自分の失敗を認めたくない傾向にあり 様々な処置が手遅れになる公算が高い、あるいは(2)借入人との関係上思 い切った措置がこうじられない(3)ワークアウト自体が通常のローンより も遥かに専門的な知識を要求されること等が移管の主な理由であります。
日本の銀行でこのようなワークアウトチームを持っているところは極めて 数が限られますが、外銀などは、一旦利払いが滞ったあるいはデフォルトが 発生ということになると自動的にワークアウトチームへローンの担当替えが なされることが一般的であります。
旧担当から過去の関係云々といったような話が蒸し返されることが常に ありますが、債権の保全及び回収を第一義として、感情に流されず淡々と手 続きを進めることがもっとも重要なポイントであります。従って組織的にも 旧担当から分離された独自の権限を持つ部署がワークアウトを担当するこ とが望ましいとされております。
というのは短期間の延長(例えば1〜3ヶ月程度)を認めてやることによ って貸し手側は交渉の様々な点において有利に立つことが可能である。例え ば、ローン書類に発生していた不備を補完する機会を得られる、延長契約を 締結する際に過去の貸し手の行動に関する損害を請求することについて放棄 させる旨の条項(GENERAL WAIVER)を入手することができます、裁判になった際 に一定期間の延長を認めた事実が貸し手側が合理的に行動していたことの証 となる、貸し手サイドで担保物の評価見直しを行う時間的余裕が生まれ回収 可能性の分析の確率が高まる、借入人に今後の事業計画などを作成させる余 裕を与えられる、等が主要なメリットであります。
転んでも只では起きないという諺を噛みしめながら交渉に臨みましょう。
例えば今後の事業計画を後3日以内に提出するように要求することなどは、 貸し手が非合理的にしか行動していないことを立証する材料となってしまい 好ましくありません。かと言って全く期限を与えなければ借入人側は特段のアクシ ョンも起こさずに単に待ち続けるだけになってしまいます。そこで要求内容にも 拠るが、一定の合理的な猶予期間を与えたうえで期限を区切って要求を行う ことによって借入人側にプレッシャーを与えるようにして交渉を行います。
回収とか取り立てという言葉には、大声で脅かしたり、感情的になって議 論の余地など与えないという印象が強いが、こんなことをしても全くメリッ トにはなりません。相手側も好き好んで利払いを遅延したり、元本の延滞をし ているわけではないことを理解すべきであります。
常にプロらしく礼儀正しく振る舞い、交渉の場においては既定の方針の中 であれば迅速な判断と柔軟な対応を心がけることが肝要であります。そうすることにより、交渉の当事者としての信頼感を芽生えさせると共に、プロが相手だからどうあ がいても勝ち目がないという決定的な敗北感を与えることが重要であります。
通常アメリカでの訴訟の99%は和解で終わると言われていますが。貸し手が 回収において法的手段に頼るか否かもこの事実を十分に考慮したうえで決定 すべきであります。実際の訴訟を提起するかいなかの判断材料としては以下のフ ァクターが上げられます。
(本稿了)